相続した土地を3年以内に売却すると節税できる?「相続税の取得費加算」「空き家特例」の適用要件や手続き方法、注意点を解説
相続した土地や空き家を3年以内に売却すると、不動産等の売却益に対してかかる税金である「譲渡所得税」を節税できる2つの特例制度を利用できる場合があります。
- ①相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- ②被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
活用する予定のない相続不動産は、放置して価値が低下してしまう前に売却することで、節税につながるだけでなく、損失が出るリスクを減らし、維持費や固定資産税の負担を抑えられます。
このコラムでは、2つの制度の仕組みや適用要件、申請方法について詳しく解説します。
コラムのポイント
- 相続した土地や空き家を3年以内に売却すると、相続税の取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除を使って譲渡所得税を節税できる可能性があります。
- 活用する予定のない相続不動産は、放置して価値が低下してしまう前に売却することで、損失が出るリスクを減らし、維持費や固定資産税の負担を抑えられます。
- 相続した土地や空き家の適切な売却時期や活用方法はケースバイケースのため、相続や税金の専門家や地域の事情に詳しい不動産会社などに相談することをおすすめします。
Contents
①相続税の取得費加算の特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)
相続税の取得費加算の特例とは、相続した不動産(土地や建物)を一定期間内に売却した場合、相続税額の一部を売却した不動産の取得費に加算できる特例です。
(参考)国税庁ホームページ|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続した不動産を売却して利益が出た場合、「譲渡所得税」と「住民税」がかかります。
このうち、譲渡所得税は、不動産を売却した金額そのものにではなく、以下によって算出される「譲渡所得」に対して課税されます。
①譲渡所得 = ②売却金額 - ( ③取得費 + ④譲渡費用 )- ⑤特別控除額
①譲渡所得 課税の対象になる金額 ②売却金額 不動産を売却した代金
(売却時の固定資産税・都市計画税の精算金も収入金額に含まれる)③取得費 不動産を購入する際にかかった金額の合計
(不動産の購入金額やその際に支払った仲介手数料)④譲渡費用 不動産を売却するためにかかった費用
(仲介手数料や売買契約書に貼る印紙代など)⑤特別控除額 一定の要件を満たす場合に適用される控除額
つまり、相続税の取得費加算とは、上記の式のうち「③取得費」の部分に、相続税の一部を加算して譲渡所得を計算できるという特例です。
相続税の取得費加算特例を適用して売却した不動産の取得費が高くなると、譲渡所得を減らすことができ、結果的に譲渡所得税の節税になるという仕組みです。
相続した不動産の売却で取得費加算の特例を適用するメリット
相続税の取得費加算の特例は、購入金額(取得費)が分からない建物や土地を売却する際の節税に有効なケースがあります。
譲渡所得の計算にあたって当時の取得費が分からない場合は、売却価格の5%が取得費とみなされてしまいます。
(参考)国税庁ホームページ|No.3258 取得費が分からないとき
相続した土地や空き家を売却する場合、親が購入した際の契約書類等が見つからないことも多く、想定していた以上の税金を支払うことになってしまう可能性があります。
相続した不動産の取得費が分からないために譲渡所得税が大きくなってしまうケースでは、取得費加算の特例を利用して課税対象となる譲渡所得を引き下げることで、税負担を抑えられます。
相続税の取得費加算特例が適用できる主な要件
相続税の取得費加算特例が適用できる主な要件は以下の通りです。
- ①相続や遺贈により財産を取得した人
- ②その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- ③その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限※の翌日以後3年を経過する日までに譲渡(売却)していること
※相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
つまり、相続税の取得費加算の特例を受けるには、相続開始から3年10か月以内に売却し、譲渡所得税の申告を行う必要があります。
取得費に加算する相続税額の計算方法
取得費に加算できる相続税額は、特例が適用される本人の相続税額や、相続した財産の評価額などによって変わってきます。具体的な額は以下の計算式で算出します。
(画像引用元)国税庁ホームページ|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
もう少し簡略化して、相続財産が土地のみで、精算課税制度適用や暦年課税分の贈与財産がないと仮定した場合の計算式にすると以下のようになります。
①取得費に加算する相続税額 = ②その人の相続税額 × ( ③売却した土地の相続税評価額 ÷ ④その人の相続税課税価格 )
相続税が多い人ほど、また相続財産価額の中で売却する不動産の割合が多いケースほど、譲渡所得税が節税できる額が大きくなるため、「相続する財産が土地のみで相続税額が高い」という方には恩恵が大きい特例となります。
取得費に加算できる相続税額のシミュレーション
例えば、相続税評価額3,000万円の土地と預貯金3,000万円を相続し、310万円の相続税を納めた場合、取得費に加算できる相続税額は以下のようになります。
取得費に加算できる相続税額 = 310万円 × (3,000万円 ÷ 6,000万円) = 155万円
この後、土地を5,000万円で売却して取得費と譲渡費用の合計が3,300万円だった場合、譲渡所得は以下のようになります。
譲渡所得 = 5,000万円 - ( 3,300万円 + 155万円 )= 1,545万円
上記のように、155万円を取得費に加算することで、本来1,700万円だった譲渡所得を1,545万円に減らせました。
売却した土地の所有期間が5年以上だった場合の譲渡所得税額を比較すると以下のようになります。
- 本来の譲渡所得税額 = 1,700万円 × 20.315% = 345.4万円
- 特例適用後の譲渡所得税額 = 1,545万円 × 20.315% = 313.9万円
今回のシミュレーションケースでは、取得費加算の特例によって約32万円の譲渡所得税が節税できました。
手続き方法
取得費加算の特例を受けるには、不動産を売却した翌年に、譲渡所得税の確定申告時に必要書類を提出して手続きをします。
主な提出書類
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
(参考)国税庁ホームページ|相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
上記の他に、確定申告時に必要な以下の書類も必要です。
- 確定申告書第一〜三表
- 登記事項証明書
- 購入時の売買契約書など(不動産の取得費用が分かる資料)
- 売却時の売買契約書など(不動産の売却代金や売却費用が分かる資料)
- 源泉徴収票
- 本人確認書類
「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を利用すると、取得費に加算される相続税額を計算できます。書類作成等で不明点・不安なことが多い場合は税理士などの専門家に相談しましょう。
②空き家特例(被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)
空き家特例は相続した空き家を3年以内に売却すると利用できる控除です。売却して得た譲渡所得の金額から3,000万円※まで控除されるため、結果的に大きな節税効果を得ることができます。
※対象の不動産を相続により取得した相続人の数が3人以上の場合は控除額上限2,000万円までとなります。
(参考)国税庁ホームページ|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
例えば譲渡所得が1,000万円の場合、所有期間15年以上場合200万円強の税負担が発生します。
しかし空き家特例が適用できれば、譲渡所得3,000万円以内なら税金が発生しないということになります。
特例が適用できる主な要件
空き家特例が適用できる主な要件は以下の通りです。
〈特例の対象となる土地・建物の要件〉
- 昭和56年(1981年)5月31日以前に建築確認申請を受けている
- 区分所有登記(マンションなど)ではない
- 相続直前まで被相続人が実際に住んでいた物件
〈特例の適用を受けるための要件〉
- 相続または贈与で取得した空き家を売却する
- 相続してから売却するまでの間、自分で住んだり人に賃貸したりしていない
- 土地と建物をセットで相続している
- 相続から3年以内に売却している
- 配偶者や直系親族ではない第三者に売却する
- 売却金額が一億円以下
- 一定の耐震基準を満たしている、または取り壊してから売却する
- 他の特例を受けていない
課税譲渡所得金額の計算方法
空き家を売った時の課税対象となる譲渡所得は、以下の方法で計算します。
①売却金額 - ( ②取得費 + ③譲渡費用 )- ④特別控除額 = ⑤譲渡所得
例えば、相続した空き家を1,500万円で売却(①)し、取得費と譲渡費用の合計(②+③)が1,000万円だった場合、譲渡所得は1,500万円-1,000万円で500万円(⑤)となります。
通常はこの500万円に対して税率をかけて所得税を計算しますが、空き家特例が適用できる場合は、④の特別控除として譲渡所得から3,000万円を控除できるため、譲渡所得はゼロとなり、譲渡所得税はかかりません。
手続き方法
空き家特例の適用を受ける場合は、相続発生から3年以内に所轄税務署で一定の書類を添えて確定申告の形で行います。空き家特例によって譲渡所得税が0円となる場合でも、確定申告しないと特例が適用されませんので注意しましょう。
相続から3年以内とは、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までを指します。例えば、2024年10月1日に相続が開始した場合は、2027年の12月31日までに申告する必要があります。
〈主な提出書類〉
- 譲渡所得の内訳書
- 土地と建物の登記事項証明書
- 管轄市町村の被相続人居住用家屋等確認書
- 売却代金1億円以下を証明する売買契約書の写し
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書(耐震改修の場合)
被相続人居住用家屋等確認書は所轄の市町村から取得する必要があるため、特例を受けたい場合は早めに動いておきましょう。耐震性を証明する書類は、建物を解体してから売る場合は不要です。
空き家特例の注意点
空き家特例は土地だけを売却する場合や区分所有などのマンションでは適用できず、被相続人が実際に住んでいた自宅を相続して売却した場合に限られます。
ただし、被相続人が相続直前に老人ホーム等に入居していた場合では、要件を満たせば空き家特例の適用が認められる可能性があります。
(参考)国税庁ホームページ|No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋
また、建築基準法が改正された1981年以前の空き家に限定されるのも注意すべきポイントです。
耐震基準が変更される前の「旧耐震基準」の家が対象になるため、耐震改修をするか、取り壊してから売却する必要があります。どちらの場合でも100万円単位の費用がかかるため、売却前に出費が発生する点は把握しておくべきでしょう。
節税金額より耐震補強や解体費用の方が高い場合、他の活用方法を模索するのも一つの考え方です。
空き家特例について以下のコラムでも詳しく解説しているので参考にしてください。
〈おすすめコラム〉
空き家特例で上手に節税!3,000万円控除の要件をわかりやすく解説
相続した空き家の売却でかかる税金は?計算方法や「空き家特例」を活用した節税方法も解説
相続不動産の売却に関する特例を受けるための注意点
相続した土地や建物を売却する際、特例を利用して節税するために知っておきたい注意点をまとめます。
取得費加算特例と空き家特例は併用できない
相続税の取得費加算の特例と、相続空き家の3,000万円特別控除の特例は併用ができません。
両方の特例に該当する場合は、どちらの制度を利用すれば節税額が大きくなるか判断する必要があります。判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
売却前に相続登記を済ませておく必要がある
相続した不動産を売却する際は、事前に相続人への名義変更手続き(相続登記)を済ませておく必要があります。
相続登記は2024(令和6)年4月1日から義務化されていますが、必要書類の収集や権利関係の問題で予定通りに進められない可能性もあります。
また、不動産が複数の相続人の共有状態になっていると、売却などが難しくなります。
相続した土地や空き家を売却して特例を利用したい場合は、スムーズに遺産分割協議や相続登記を完了させるためにも、早めに相続人同士で話し合ったり、司法書士に相談したりすることをおすすめします。
〈おすすめコラム〉
まとめ
相続した土地や空き家を3年以内に売却すると、相続税の取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除を使って譲渡所得税を節税できる可能性があります。
2つの特例は併用できないため、どちらがより有利になるかを事前にシミュレーションしてから申告しましょう。判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
活用する予定のない相続不動産は、放置して価値が低下してしまう前に売却することで、損失が出るリスクを減らし、維持費や固定資産税の負担を抑えられます。
ただし、相続した土地や空き家の適切な売却時期や活用方法はケースバイケースのため、相続や税金の専門家や地域の事情に詳しい不動産会社などに相談することをおすすめします。
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